総角2 思い通りにいかない
八の宮の一周忌が過ぎて、再び宇治を訪ねた薫。
八の宮が亡くなってしまった今、頼りは薫だけになってしまい、大君(おおいぎみ)と中の君(なかのきみ)の女房たちは「薫さまと大君さまが一緒になられて、こんな山里ではなく都へお連れしてくだされば」と願っています。
いっそ薫さまを大君さまのお部屋に入れてしまおうか、と考えている者もいるようです。
自分の結婚はあきらめている大君。女房たちの思惑は深く知りませんが、勝手な事をしないだろうかと注意しています。
薫には中の君と一緒になって欲しい。そう願う大君は中の君に話します。
「父上は軽々しくこの家を出るなとおっしゃっていましたが、あなたまで独り身でいるのはどうかしら。私は独り身でいるとして、あなたは世間並に結婚して欲しいの。私は結婚したあなたのお世話ができれば、満足よ」
「父上は、お姉さまだけ独身で過ごせとおっしゃった訳ではありません。私は、こうしてお姉さまと一緒に過ごしていれば、寂しい日々も過ごしていけます」中の君はこう答えます。
さらに大君は、老女房の弁の君(べんのきみ)に話します。
「私は昔から結婚に関してその気はありません。中の君が美しい盛りを過ぎてしまうのをもったいなく思っています。もし、薫さまが亡き父の思いを今も大切にしてくださっているなら、妹を大切にしてください。妹と私、身は違えども心はいっしょです。薫さまにはそう伝えなさい」
弁の君は「その話は薫さまに何度もお伝えしましたが、薫さまはそれは出来ないとおっしゃっています。
ぶしつけな事を申し上げますが、頼る人のない今の生活では、行く末が心配です。父上の遺言に背くまいとするのは分かりますが、父上はふさわしくない方との結婚を心配してのことです。薫さまとのご縁はありがたいものですし、父上も『薫さまが娘と結婚したいと思っていらっしゃるなら、うれしいことだ』とおっしゃっていたのですから...」
弁の君は、大君に薫との結婚を受け入れて欲しいと思っています。
話は平行線のまま、大君は中の君と一緒におやすみになりました。
弁の君は薫に、大君の意向を伝えます。
薫もとうとうしびれを切らして「今夜、大君が寝ている部屋に、こっそり入れるよう手配してくれ」と頼みます。(続く)