宿木(やどりき)1 匂宮の婚約
話はちょっとさかのぼります。
今上帝(きんじょうてい)は母親を亡くした娘の女二宮(おんなにのみや)の将来を考えていました。有力な後見人のいない女二宮なので、臣下に嫁がせようかと考えています。
その相手に選ばれたのが、他でもない薫でした。
大臣の夕霧は、娘の六の君を薫と縁組みさせようかと考えていましたが、思わぬ話が出てきたものだと思います。
帝でさえ娘の縁組みに頭を悩ませているのに、このままでは六の君は結婚できなくなってしまう。夕霧は自身の妹で匂宮の母である后に、いま一度匂宮を説得して欲しいと頼みます。
母親に説得された匂宮(格式ばった夕霧の家に取り込められると、もう気ままに振る舞えそうもないな。でも夕霧を敵にまわすのはよくない)と思い、六の君との縁組みを受け入れることにしました。
匂宮の屋敷に迎えられたばかりの中の君は不安になります。
自分には後ろ楯になってくれる人はいない。頼りは匂宮の愛情だけ。でも匂宮が六の君と結婚となれば、当然、大臣の娘である六の君が大切にされるだろう。自分は「あっさりと匂宮に捨てられた」と世間の笑い者になってしまうのでは...
そして、亡くなった姉の大君(おおいぎみ)を思います。
お姉さまが、あんなに熱心だった薫の求婚を受け入れなかったのは、(薫と結婚しても、薫はいずれ身分ある女性と結婚してしまい、自分は辛い思いをするだけ)と分かっていたからなのだ。
なんと自分はうかつだったのだ...。悔やむ中の君。
でも、いまさらどうしようもない。悲しんでいる姿を夫に見られたくない。
中の君は、夫の婚約話は知らないふりをして過ごします。(続く)