椎本(しいがもと)1 娘を持つ父の心情
旧暦の2月20日頃、匂宮(におうのみや)は、今の奈良県の長谷寺へお参りに行きます。でも、メインは薫が話していた、宇治の美しい姉妹のようです。宇治にある、おじの夕霧の別荘で休憩していると、薫もやってきました。
この別荘がある川の対岸に、八の宮の住まいがあります。
にぎやかな音楽を聞いて、八の宮は昔を思い出します。
あんな音楽の宴をしなくなって、どれくらいの月日がたったことだろう。娘たちは成長したが、いつまでもこんな山奥で過ごして行く訳にもいくまい。
いっそのこと、薫の君と縁があれば嬉しいが...いやいや、あの方は出家願望が強く、その気は無さそうだ。
そんな八の宮の思いも知らず、翌日薫は若者たちを連れて、八の宮の住まいを訪ねます。
自由に出歩きできない匂宮は、姫君たちに手紙を送ります。妹の中の君(なかのきみ)が返事を書きました。以降、匂宮と中の君は手紙を送り合うようになります。
秋の始めの旧暦7月、薫は再び八の宮を訪ねます。
八の宮は今年は厄年で(自分に何かあったら、娘たちはどうなるのだろうか)と心配しています。
「私がいなくなったとしても、娘たちをお見捨てにならず、何かのついでにでも様子を見てやってください」八の宮は薫にお願いします。
「決しておろそかな扱いは致しません。私が生きている間は、姫さまたちに、変わらぬ志を見ていただこうと思っています」薫は答えます。
せっかくですので、別室にいる娘たちに琴でも弾かせましょう。八の宮は姉妹に演奏をさせます。
「ここまでお近づきにさせたのですから、あとは若い方たちにおまかせします」そう言って八の宮は仏間に行きました。
しかしながら、八の宮は後日、山寺へ向かう前に娘たちに
「人の甘い言葉に乗って、軽々しくこの山里を出てはいけません。人とは違う運命と思って、ここで一生を終えるつもりでいなさい」と訓戒します。
そして、八の宮は帰ってくることはありませんでした。(続く)