野分(のわき)1 風の中の櫻
野分とは、今で言う台風のことです。
今と違って天気予報などありませんから、当時の人は怖かったと思います。
旧暦八月、お庭の手入れをしていたら、突然の強い風。みんなおろおろしています。
夕霧が風のお見舞いに六条院の春の御殿にやってきました。
扉が開いています。何気なく中を覗くと
他とは比べようもない、気高く清らかな人がひとり。
もしかして、あの方が紫の上さま...!
まるで春霞の間から、咲き誇る桜を見るようだ...
普段なら空いた扉から紫の上が見えるはずがありません。
でも、強い風のため屏風などさえぎるものは部屋の隅に寄せてあります。
また、紫の上は庭の草花を心配して、奥から少し前に出てきていたのでした。
父が普段から、私を紫の上さまから遠ざけているのが分かる。私があの方の姿を見ることのないようにということだろう。
なんだか恐ろしくなった夕霧。そこへ、源氏の君が来ました。「格子戸を早く閉めなさい。男たちもいるだろうに、奥まで見えてしまう」
夕霧、そっと扉を離れて、今来たかのように声をかけます。
源氏「話をしていれば誰か来たな。あそこの扉が開いているではないか」
もしかしたら、紫を見られたかもしれない...(続く)