胡蝶(こちょう)1 桜、ほほえむ、春の御殿
旧暦三月の二十日ごろ、春は終わりに近いのに、六条院の春の御殿はまだまだ花盛りで、鳥もさえずっています。せっかくのよい景色なので、池に舟を浮かべてみんなで楽しもうということになりました。
(今さら気がついたのですが、人が載れる舟を浮かべられる池って相当デカイはず...しかも、春の御殿の池は秋の御殿にもつながっています。六条院、恐るべし)
ちょうど秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)が里帰りしている頃です。中宮は身分柄出歩き出来ないので、若い女房たちが代理で春の御殿へ舟で出かけます。
柳の葉が色濃く垂れ下がり、花のいい香りがします。廊下をめぐる藤が美しく、山吹の花も咲き誇っています。
桜の花は季節を過ぎていますが、春の御殿では今が盛りと咲いています。
この桜を描いたところ、原文では
ほかには盛り過ぎたる桜も、今盛りにほほえみ
とあるんです。美しい表現ですね✨桜が咲く様子を「ほほえむ」と表現するとは。
貴族の殿方も多く招待されています。でも、彼らのお目当ては美しい花ではなく、玉鬘のようです。
この頃になると玉鬘のうわさは貴族の殿方の耳にも入っていて、「特に難点もなく、源氏の君が大切にしている姫君」と評判です。沢山の殿方が胸を焦がしていますが、内大臣(ないだいじん)の息子は、実は自分の姉妹だと知らずして玉鬘を想っています。(続く)