若菜 上9 自分は大した人間じゃないんだ...
年が代わって、明石の女御(にょうご)の出産が近くなってきました。
女御のお部屋は春の御殿にありますが、場所を変えた方が吉だということで、明石の君のお部屋がある冬の御殿に女御は移ります。
この冬の御殿、明石の君の母の尼君も住んでいらっしゃるのですが、尼君は孫である女御の前に参上して、昔話をします。
源氏の君が明石に来られた時のこと、女御が生まれた時のこと、明石の浦を旅立ったこと...
女御はかなりショックを受けています。
実の母の身分が低いことは知っていたけれど、そんな都を遠く離れた場所で自分は生まれたなんて...
自分が今こうして大切にされているのは、紫の上のお母さまのおかげなんだ。
なのに私ときたら「自分は光源氏の娘」と思いあがっていた。事情を知っている人達は「田舎生まれのくせに」と笑っていただろうと思うと、恥ずかしい...
そこへ明石の君がやってきました。
まあ母上(尼君)、こんなところで何をなさっているんです。あら...
女御を見ると、涙ぐんでいらっしゃいます。明石の君は、尼君が女御に明石にいた頃の話をしたと悟ります。
今こんな話を知ったら、宮仕えに自信を無くしてしまわれるかもしれない。女御が正式な后の地位についた時にでも話そうと思っていたのに...
そして3月10日過ぎ、皇子が産まれました。
明石の地で話を聞いた明石の君の父上は
「かつて私は夢で、我が家から帝と后がお出になると告げられた。このたび産まれた皇子が帝となり、母の女御さまは后の地位を得るだろう。私の念願は叶った」と思います。
そして、夢によると自分自身は栄華の光を浴びることはない、ということも知っていた父上は、深い山奥へと去っていきました。(続く)