幻3 追悼の日々
衣替えの季節になりました。毎年紫の上が準備なさっていましたが、今年は他の夫人が用意してくださいます。こんなちょっとしたことでも、源氏の君は紫の上がいない悲しみを感じます。
五月雨が降るある日、息子の夕霧が訪ねてきました。
「早いもので、もうすぐ一周忌です。どのようになさるつもりですか」と夕霧に尋ねられたので、源氏の君はあれこれと頼みます。
あの世とこの世を行き来すると言われた、ホトトギスが鳴いています。
7月7日の七夕も、何をするでもなく過ぎていきます。
織姫と彦星の出会いよりも、ふたりが別れる夜明けのほうが、源氏の君は感慨深く思われます。
一周忌には、紫の上が生前作らせていた曼陀羅(まんだら)を供養しました。
「本当に、紫の上がいないまま、今日まで生きてきたことだ」と源氏の君はしみじみ思います。紫の上に仕えていた女房たちも感慨深げです。
9月9日は菊の節句。菊の花に綿をかぶせて一晩おき、菊に降りた露を含ませた綿で身体を拭いて長寿を祈ります。
しかし、共に長寿を願いたい人はもういません。
10月、空を飛んでいく雁に、紫の上の魂の行方を尋ねます。
何につけても、気が紛れることはありません。