幻2 誰と会っても、慰めにならない
源氏の君は久しぶりに夫人のひとり、女三宮の所へ出かけます。
女三宮は出家していて、仏さまに仕える日々です。
庭の山吹が美しく咲いているのを源氏の君は
「山吹が華やかに咲いていますね。植えた人がいない春とも知らずに、今年は一段と美しく咲いているのが、もの悲しく思われます」
「谷には春も、と言いますので...」女三宮は応えます。
これは和歌の一節で、和歌の意味は「出家した身にとっては春もよそのこと。だから花が咲いた、散ったと心が動くことはない」
私は出家した身なので、世間の喜びも悲しみもわかりません。女三宮は出家した者として応えたのですが...
「心が動くことはない、か...他に言い方があるだろうに」
源氏の君には冷たく響きます。
紫の上はちょっとしたことでも、こちらの気持ちに寄り添って受け答えしてくれたのに。あの時も、この時も...
次は、明石の君を訪ねます。
久しぶりに源氏の君がお越しになったので明石の君は驚きますが、趣深く応対します。
やはりこの方は他とは優れている。源氏の君は思います。
でも紫の上は紫の上で、違ったよさがあった...
源氏の君はかえって辛くなったようです。
昔話をしているうちに夜も更けてきましたが、明石の君の元に泊まることなく、自分の部屋に帰って行きました。
紫の上さまがいなくなってから、源氏の君はかえって私の元にお越しにならなくなった。
明石の君は寂しさを感じつつ、でも恨むでもなく、ただしみじみと思います。(続く)