若菜 下3 出家の願い
このところ源氏の君は、紫の上と女三宮のところへ行く頻度が同じくらいになってきました。
女三宮には父の朱雀院に兄の今上帝(きんじょうてい)がついているのだから、粗略な扱いはできないのは当然、と紫の上は思います。
一方、自分は源氏の君の愛情しか頼れる物がない。年をとれば愛情も薄れていくだろう。そうなる前に出家してしまいたい。
季節は流れ、今年は朱雀院が50歳になられるお祝いの年です。(実はこの巻の最初から6年ほど時間がたっています)
源氏の君は2月にお祝いの宴を開く予定ですが、朱雀院はその時に女三宮の琴を聞きたいと希望されます。
どうやら、源氏の君が娘の面倒を見てくれているか見定めようとの考えです。
源氏の君は時々レッスンをしていましたが、ここ最近は集中レッスンを行っています。そのかいあって、宮の腕前はだいぶ上がりました。
そこで1月に、紫の上、女三宮、明石の女御(にょうご)、明石の君の4人で演奏会を行いました。
その演奏会の後、源氏の君と紫の上は話をします。
「私は思いのほか大切に育てられましたが、幼い頃から母親など愛する人に先立たれるなど悲しい思いをしてきました。あなたは、私が須磨へ流されたこと以外に胸を痛める思いをしてこなかったでしょう?その点で、あなたは優れた運勢を持っているのです」
「はたからはそう見えるかもしれませんが、心の中には物思いばかりです。以前からお願いしている出家を許していただければと思います」
「とんでもない。あなたを思う私の気持ちを最後まで見届けてください。
夕霧の母上とは心通わぬうちに死別してしまった。冷泉院の后の母上は、付き合っていても緊張するばかりで、心穏やかに話ができる仲になれず、疎遠になってしまった。それが浮わついたうわさの種になり、気の毒なことをしました」
なんでこんな話が出てくるのでしょう?それは、この後の伏線です。(続く)