常夏6 わざと音痴に歌えますか?
さて、近江の君は早速今夜にでも弘徽殿女御にお会いしようと、まずは手紙を送ります。
「お近くにいらっしゃりながら、対面できなかったのが誠に残念です。お顔は存じ上げませんが、姉妹であるとは恐れ多いことです。ああ、恐れ多い、恐れ多い」
...で、肝心の用件は裏面に「そうそう、今夜そちらに参上します」とあります。
添えられた和歌がこちら
えーっと...意味を成しているのは「いかであひ見む」、ぜひお会いしたいという所だけ。
地名をいっぱい入れれば教養があると、近江の君は思っているようです。
このお手紙を届けさせたのは、トイレ掃除の係の女の子。しかも炊事場へ持って行ったんです。(そこしか知らなかったんでしょうけど)手紙のお使いをさせるべき子ではないですし、女御さまのお部屋に直接持っていかないといけません。
女御さまは、このお手紙に内心苦笑されたでしょう。手紙を見た女房たちも、クスクス笑っています。
「お返事はこのように書かないといけないようね。代筆してちょうだい」
「難しいですね。代筆だとわかる内容でもお気の毒ですから...」
できた和歌がこちら
これも意味があるのは「波立ち出でよ」と「松」くらい。待っているので、お出でくださいとのこと。
地理に詳しくないんですが、代筆の女房は「常陸」とか「駿河」とか、近江の君の和歌に出てきた場所がある国名を、お返しの和歌に入れています。近江の君に気を使っているのでしょう。
女御さま「私が本当にそんな和歌を詠んだと思われたら困るわ」
女房「大丈夫ですよ。見る人が見れば分かりますから」
返事をもらった近江の君、「素晴らしい和歌だわ。待つとおっしゃっているのね」さーて、お支度、お支度...
しっかし...よく作者はこんな和歌を作れたなあと感心してしまいます。
これは、声楽やボイストレーニングを受けている人に、わざと音痴に歌えと言うものですよ。よくこんなメチャクチャな和歌が詠めたものです。
次回から新しい章に入ります。