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手習(てならい)1 生き返った謎の女は...

その頃、比叡山に横川の僧都(よかわのそうず)と呼ばれる尊いお坊さまがいました。3月に母の尼と妹の尼を連れて長谷寺へお参りに行った帰り道、母の尼が具合を悪くしたので、宇治で泊まることにしました。

 

すると、宿泊した所の森に白いものが広がっています。よく見れば、若い女です。

「狐か何かが化けているのではないか」と人々は騒いでいます。僧都もお出でになって見て見ました。「これは間違いなく人だ。死人を捨てたのが生き返ったのかもしれない」とりあえず家の中に入れました。

 

謎の女の話を聞いた妹の尼は「きっと長谷寺の観音さまが、亡くなった娘の代わりとして授けてくださったのだ」と自ら女を介抱します。

女は、やっと目を開けたと思ったら「生きていても仕方ない身の上です。夜にこっそり、川に投げ込んでください」と不吉なことを言うだけ。その後は目を開けず、かといって死にもしない状態です。

 

僧都一行は、女を連れて比叡山に帰りました。女は、僧都の妹の尼が住む小野の里で看護を受けています。

4月、5月と過ぎましたが、女の容体は変わりません。もしかしたら、もののけ(悪い霊)がついているのではと祈祷をしてみると、もののけが他の人に乗り移って語り始めました。

 

「我は生前は法師だったが、恨みを残して死んだため、この世をさまよっていた。その時、美しい女たちが住まう辺りに住み着いたのだ。女たちのうち、ひとりは命を奪った。この女は自ら死にたいと言っていたので、ある暗い夜にさらったのだ。しかし、この女は観音の護りが強く、また、僧都の力にも負けた。退散しよう...」

 

もののけが去っていくと、女は意識を回復しました。ここはどこかしら。知らない人ばかり...

なんとか思い出して「私は、人生は終わったと身投げした者です」と言います。この女、行方不明になっていた浮舟(うきふね)でした。

 

死のうと思っていたのに生き返ってしまったなんて...「元気になってよかった」と喜ぶ妹の尼たちに「私を尼にしてください」と浮舟は申し出ます。

そんな、あなたのような若い方を尼にするなんてできません。どちらからいらっしゃったの?そう尋ねられても浮舟は答えません。

「意識を失っている間に忘れてしまいました。はっきり思い出せません。私が生きていることを、誰にも知られたくありません」浮舟はそう言うだけです。(続く)